北九州市旧大阪商船ビル
- 文化・教育施設
北九州市門司区に佇む旧大阪商船ビルは、国際貿易港として栄えた門司港の歴史を今に伝える貴重な建造物です。1917年(大正6年)、大阪商船門司支店として建てられたこの洋風建築は、過去の様式に捉われない新しい造形芸術である「ゼツェシオン風」でまとめられています。鮮やかなオレンジ色のタイルと、白い石の帯が織りなす外観、そしてシンボリックな八角形の塔屋が特徴的で、港を行き交う人々の目印となっていました。かつて、この建物は日本と海外を結ぶ交通の要衝でした。1階は待合室、2階はオフィスとして利用され、アジアやヨーロッパへ旅立つ人々で常に賑わっていたといいます。最盛期には、月に200隻もの客船が門司港から出航し、このビルはまさに人々の希望や夢が交錯する国際交流の玄関口でした。
昭和後期には一時期、解体の危機に直面しましたが、門司港レトロ地区の整備事業の中で、往時の姿に修復され、その歴史的価値が次々と再評価されることになります。1999年(平成11年)には国の登録有形文化財に、2007年(平成19年)には経済産業省の近代化産業遺産に認定されました。さらに2017年(平成29年)には「関門“ノスタルジック”海峡」の構成文化財として日本遺産にも認定されています。
現在は1階にギャラリーやカフェ、2階に貸ホールが設けられ、多くの人々が憩う観光スポットとして活用されています。歴史的な価値を保ちつつ、現代の街の賑わいを創出するこの建物の運営管理には、多大な敬意が表されます。歴史の息吹を感じたい方々に、当地への訪問を心から推奨いたします。
(2025年9月執筆)
PHOTO:写真AC