道後温泉本館
- 文化・教育施設
愛媛県松山市に位置する道後温泉は、日本最古の湯として知られ、その歴史は神代や白鷺の伝説に彩られています。史実としても、596年に聖徳太子が来浴したという記録があり、『万葉集』や『源氏物語』などの古典文学にも登場するなど、古くから都人に愛される名湯としての地位を確立していました。
現在のシンボルである「道後温泉本館」の壮麗な姿を築き上げたのは、1890年に初代道後湯之町長に就任した伊佐庭如矢です。彼は周囲の反対を説得して老朽化した施設の改築を断行し、1894年に現在の神の湯本館となる木造三層楼を完成させました。その翌年には夏目漱石が訪れ、後に小説『坊っちゃん』の舞台として描かれたことで、全国的な知名度を得ることになります。また、1899年には日本唯一の皇室専用浴室である又新殿も完成し、その格式を高めました。
城郭や社寺を思わせるその建築は、近代和風建築としての価値が極めて高く、1994年には公衆浴場として日本で初めて国の重要文化財に指定されました。さらに2019年から2024年にかけては、営業を継続しながらの大規模な保存修理工事が実施され、次代への継承が図られました。単に保存されるだけでなく、今なお多くの人々が入浴できる「生きた文化財」として活用されている点が、当地にとっての最大の位置づけです。
100年先を見据えて建築された遺産を、現代の技術と情熱で守り、運営し続ける関係者の皆様には、深く敬意が表されます。歴史ファンの方は、ぜひ現地を訪れ、時を超えて愛される湯の温もりとその歴史的空間を肌で感じてみてください。
(2025年12月執筆)







