旧泉寿亭特別室棟
- 文化・教育施設
愛媛県新居浜市の産業遺産を語る上で欠かせない「旧泉寿亭特別室棟」は、住友グループの迎賓館として建てられた貴重な数寄屋建築です。「泉寿亭」としての歴史は明治期の惣開(そうびらき)時代にまで遡りますが、現存するこの建物は1937年12月、別子銅山開坑250年記念事業の一環として、現在の別子銅山記念図書館がある場所(中新田)に建設着工されました。「泉寿亭」という名称は、住友家の屋号である「泉屋」を寿ぐ(ことほぐ)という意味が込められています。
建設当時は広大な敷地に複数の棟が廊下で結ばれていましたが、中でも特別室は皇族や政府高官、住友の当主など限られた賓客のみが宿泊や利用を許された特別な空間でした。設計は現在の日建設計の源流となる長谷部竹腰建築事務所が手掛け、各部屋で異なる床の間の意匠や、細部まで技巧を凝らした洗練された造作など、昭和初期の近代和風建築として極めて高い完成度を誇ります。
長らく新居浜を訪れる要人の接遇施設として機能しましたが、「リーガロイヤルホテル新居浜」の開業に伴いその役割を譲り、1990年8月に閉館しました。しかし、その歴史的価値を惜しむ声に応える形で、1991年に別子銅山最後の採鉱本部があった端出場地区(現在のマイントピア別子)へ、格式ある玄関と特別室1室のみが移築保存されました。この建物は、住友の繁栄と地域の近代化を伝える重要な遺構として、2009年には国の登録有形文化財に登録されています。
(2025年12月執筆)







