【内子町】旭館
- 文化・教育施設
愛媛県喜多郡内子町に位置する旭館は、明治から大正期にかけて製蝋業や製紙業で繁栄した内子町の経済的活力が生み出した、近代的な文化施設の遺産です。
この施設は1926年に主要建造されました。当時、内子町では産業的な繁栄が安定期に入っており、従来の伝統的な芝居や寄席に加えて、映画(活動写真)の上映や集会といった大衆的な娯楽への需要が高まっていました。旭館は、こうした新しい文化需要に応えるために誕生したのです。旭館の歴史的な特徴の一つは、その所有形態にあります。所有者は地元の有力な産業資本の営利企業様であり、公的な分類においても「産業3次」(商業やサービス業)に属するとされています。これは、旭館が単なる公設の劇場ではなく、地域の富によって支えられた商業的な娯楽施設として機能したことを強く示唆しています。
建築様式においても、伝統的な劇場とは異なる近代性が追求されました。構造は木造平屋一部2階建、瓦葺きで、建築面積は273㎡と地域住民を収容するに十分な規模でした。特に、屋根の上に突出した塔屋付の意匠は、当時のモダンな様式を取り入れた証拠であり、映写室としての機能や、地域のランドマークとしての役割を果たしていたと推察されます。外観は切妻造桟瓦葺で、正面は三段に切下げられ、繰形や歯飾りで飾られた特徴的なデザインを有します。
戦後、旭館は機能の変遷期を迎えました。1946年から1965年にかけて改修が行われ、戦後の社会変容に対応し、初期の映画館としての用途から、多目的集会所としての利用へと変化していったと考えられています。旭館は、地方都市が伝統(内子座など)を継承しつつも、近代的な大衆文化をいかに受容し、その経済力でモダンな公共空間を作り上げたかを示す貴重なモデルです。この歴史的価値が公的に認められ、旭館は2013年に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。これは、この建物が昭和前期の内子町の賑わいを現代に伝える重要な要素であると評価されたためです。
この貴重な歴史的建造物を現在まで維持し、内子町の歴史的景観を未来へと繋いでいる運営管理主様には、多方面から深い敬意が表されます。歴史ファンの方々には、伝統と近代の文化が共存した内子町を訪れ、旭館のモダンな佇まいを通して、かつての繁栄と人々の活気ある娯楽史を体感されることを心から推奨いたします。
(2025年12月執筆)
PHOTO:写真AC







