しいのき迎賓館
- 文化・教育施設
金沢市の中心に位置する「石川県政記念しいのき迎賓館」は、1924年に竣工した旧石川県庁舎本館を保存・活用した文化施設です 。その設計は、国会議事堂の建設計画を主導したことで知られる大蔵省の技師、矢橋賢吉氏が手掛けました 。当時、石川県内では初となる本格的な鉄筋コンクリート構造の建築物として、大正時代の最新技術と、来るべきアール・デコ様式を予感させるモダンな美術的装飾が随所に施されています 。外壁を彩る褐色のスクラッチタイルは、建築家フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル本館(1923年竣工)でも採用されたことで知られ、当時の建築界における流行をいち早く取り入れた、格調高い近代建築の姿を今に伝えています 。
約80年にわたり県政の中枢として機能した後、2003年の県庁移転を機にその保存活用が検討され、大規模な改修を経て2010年に「石川県政記念しいのき迎賓館」として新たな歴史を歩み始めました 。この再生プロジェクトでは、歴史的価値の高い正面部分は外観や内装の意匠を尊重して保存する一方、背面側は現代的なガラス張りのデザインに一新され、レトロとモダンが見事に融合した空間が創出されています 。建物の象徴であり、その名の由来ともなった正面の一対のシイノキは、樹齢約300年を数え、1943年に国の天然記念物に指定された貴重な存在です 。この「堂形のシイノキ」は、建物と一体となって訪れる人々を温かく迎えます。
リニューアル後は、ギャラリーや会議室、レストラン、カフェなどを備えた複合文化施設として、県民や観光客に広く親しまれています 。さらに、国連大学の機関が入居するなど、国際的な学術交流の拠点としての役割も担っています 。これらの歴史的・文化的価値が改めて評価され、建物自体も2021年に国の登録有形文化財に登録されました 。
(2025年6月執筆)
PHOTO:写真AC