黒田記念館
- 文化・教育施設
東京・上野公園の片隅に、赤褐色のタイルが印象的な洋館が静かに佇んでいます。「黒田記念館」です。この建物は、日本の近代洋画の父と称される画家・黒田清輝が遺した遺産と遺言に基づき、1928年に竣工しました。
その設立趣旨は、黒田自身の作品を広く公開するとともに、未来の美術の発展を奨励することにありました。当初は美術研究所としての機能も備え、多くの芸術家を育む土壌となったのです。設計は、昭和初期を代表する建築家・岡田信一郎によるもので、格調高い外観と壮麗な内装は、建物自体が芸術作品と言えるほどの完成度を誇ります。その歴史的・建築的価値は高く評価され、国の指定有形文化財となっています。
館内では黒田の作品が公開されていますが、代表作である『湖畔』や『読書』といった名画は、作品保護のため常設では展示されていません。年に数回、限られた期間だけ特別室で公開されるこれらの作品と、歴史的な空間で対峙する時間は、訪れる者にとって何物にも代えがたい貴重な体験となります。
昭和、平成、令和と、時代を超えて黒田清輝の志と芸術を今に伝えるこの記念館。その貴重な建築と作品群を大切に守り続ける関係者の皆様に、心からの敬意を表します。
(2025年10月執筆)