日本銀行 鳥居坂分館
- 建物・施設
東京・六本木の鳥居坂に、日本の金融史の重要な舞台裏を静かに見守ってきた「日本銀行鳥居坂分館」は静かにたたずみます。この由緒ある施設が、大規模な都市再開発計画「六本木五丁目西地区市街地再開発事業」に伴い、2025年度をもってその歴史に幕を下ろします。
この地は江戸時代には大名屋敷が連なる由緒ある場所でした 。明治時代に入ると、実業家たちの邸宅地へと姿を変え、日銀鳥居坂分館が立つ場所には、かつて実業家・川崎金三郎の邸宅が構えられていたと記録されています 。戦後、日本銀行の施設となってからは、その存在が広く公にされることはありませんでした。主に役職員が国内外の要人との会合に利用するゲストハウスとしての役割を担い、日本の金融政策に関する重要な対話が、この静かな空間で幾度となく交わされてきたことが推測されます。
日本の金融史を彩る由緒ある施設ですが、六本木エリアの未来を大きく変える再開発計画により、この施設の運命もまた新たな章を迎えます。2025年度に閉館した後、建物は取り壊され、2030年度に完成が予定されている国際的なビジネス・文化拠点の一部へと生まれ変わりる予定です。
表舞台にその名が出ることはなくとも、鳥居坂の歴史の一端を担い、戦後日本の経済を陰で支え続けた日本銀行鳥居坂分館。その静謐な空間が果たしてきた役割に、私たちは心からの敬意を表します。建物が姿を消した後も、この場所で紡がれたであろう記憶は、六本木の新たな街並みの中で静かに語り継がれていくに違いありません。
(2025年9月執筆)
PHOTO:PIXTA