【国立天文台】ゴーチェ子午環室
- 文化・教育施設
1903年にフランスで製造されたゴーチェ子午環は、翌1904年に日本へ導入されました。当初、麻布の旧キャンパスでは敷地の地形的制約から設置が行えず、長期間にわたり梱包されたまま保管されていました。 1923年の関東大震災の際は、この「未設置・梱包状態」であったことが幸いし、稼働中の他機材(レプソルド子午環など)が被災する中で奇跡的に難を逃れています。
1924年、三鷹への移転とともに現在の観測室が竣工し、本格的な運用が開始されました。東京帝国大学営繕課が設計を手掛けたこの建物は、かまぼこ型の半円筒屋根と台形の入口を組み合わせた独創的な形状をしており、セセッション様式を取り入れた1920年代を代表する機能美を備えた近代建築として知られています。長年にわたり眼視による天体の精密位置観測を行ってきましたが、1982年に自動光電子午環が建設されたのち、1983年に眼視観測の第一線を退きました。その後、1992年よりCCDマイクロメータを装備し、クェーサーなどの観測に活用されたのち、2000年頃にその役目を終えています。
日本の天文学史を支えたこの施設は、2014年に国の登録有形文化財となりました。敷地内には子午線標室などの附属施設も現存しており、往時の観測環境を今に伝えています。一世紀を超えてこの貴重な科学遺産を維持保存されてきた運営管理主の方々には、深く敬意が表されます。近代天文学の歩みと建築の美しさを感じられるこの地へ、歴史ファンの皆様もぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
(2025年12月執筆)
PHOTO:写真AC







