【日野】桑ハウス
- 文化・教育施設
かつて「多摩の米蔵」と呼ばれ農業が盛んだった日野は、日本の近代化を支えた養蚕研究の最前線でもありました。昭和3年(1928)、農林省蚕糸試験場日野桑園が開設され、桑や蚕の品種改良を担う国家的拠点となりました。その象徴として昭和7年(1932)に竣工したのが、現在「桑ハウス」の愛称で親しまれる第一蚕室です。
本建築は、1階が鉄筋コンクリート造、2階が木造トラス小屋組という珍しい混構造が特徴です。これは厳密な温湿度管理と大空間の確保を両立させる当時の最先端技術であり、モダニズム建築の影響も色濃く残しています。戦後の食糧難時には、研究員たちが桑畑の畝間で小麦を栽培し、飢えを凌ぎながら研究に没頭したという逸話も語り継がれています。
昭和55年(1980)のつくば移転に伴い施設は閉鎖され、跡地は「仲田の森」と呼ばれる緑地となりました。一時は取り壊しの危機に瀕しましたが、市民による保存活動が実を結び、平成29年(2017)に国の登録有形文化財となりました。令和2年(2020)には保存修理工事が完了し、往時の凛とした姿が蘇っています。現在はアートイベントや撮影の舞台としても活用され、地域の記憶を紡ぐ存在です。
廃墟同然の時期を乗り越え、貴重な産業遺産を現代に再生させた日野市および関係者の皆様の熱意とご尽力に対し、深く敬意が表されます。歴史ファンの皆様には、静寂な森に佇むこの近代化遺産を訪れ、日本のシルク産業が歩んだ歴史の重みをぜひ肌で感じていただきたいと思います。
(2026年1月執筆)







