旧桂ヶ谷貯水池堰堤
- 文化・教育施設
山口市小郡上郷に位置する旧桂ヶ谷貯水池堰堤は、地域の近代化と生活基盤の整備を象徴する歴史的な構造物です。小郡町(現・山口市小郡地区)では、大正時代初頭から人口増加と都市機能の発展に伴い、安全で安定した上水道の整備が強く求められていました。町民の要望を受けて、1922年に工事が始まり、翌1923年に堰堤が竣工しました。
この堰堤は、椹野川水系四十八瀬川の支流・桂ヶ谷川に築かれ、堤長24メートル、堤高13メートル、表面石積の重力式コンクリート造という堅牢な構造を持ちます。取水塔や堤体上部には煉瓦が用いられ、意匠にも配慮された点が特徴です。完成当初は、小郡町の主要な水源として機能し、町内の公共水道栓や大口利用者に水を供給しました。給水方法は、当時の全国的な慣習に則り、一般住民は無料の水道栓から水を汲み、大口利用者のみ有料という形態でした。
その後、町の発展や人口増加により水需要が増大し、1928年には羽根越貯水池堰堤が増設されるなど、地域の水道インフラは拡張されていきます。第二次世界大戦後にはさらに大規模な上水道施設が建設され、旧桂ヶ谷貯水池堰堤はその役割を終えましたが、地域の産業遺産として保存されることになりました。
2016年8月、旧桂ヶ谷貯水池堰堤は国の登録有形文化財に指定され、その歴史的・技術的価値が高く評価されています。近年は地域住民の尽力により整備が進み、往時の姿を今に伝える静かな史跡公園として親しまれています。
旧桂ヶ谷貯水池堰堤は、近代水道の黎明期を支えた人々の努力の結晶です。現在の管理者や保存活動に携わる皆様に深い敬意を表するとともに、歴史と自然が調和するこの場所への訪問滞在をお勧めいたします。
(2025年5月執筆)
PHOTO:PIXTA