石川県立美術館広坂別館
- 文化・教育施設
金沢市の文化施設が集まる本多の森公園に、静かに佇む石川県立美術館広坂別館。この建物は1922年、かつて加賀藩の家老であった本多氏の上屋敷があった土地に、旧陸軍第九師団の師団長官舎として建設されました 。明治時代、日清戦争後の軍備増強政策の一環として1898年に金沢に第九師団が置かれ、街が「軍都」として発展したという歴史的背景があります 。大正期の和洋折衷の建築様式を今に伝えるこの官舎は、全国に現存する師団長官舎6棟のうちの1つという大変貴重な存在であり、その歴史的価値が認められ2016年に国の登録有形文化財に登録されました 。
第二次世界大戦後は、その役割を大きく変えることになります。占領期には米軍将校の官舎として、その後は金沢家庭裁判所、石川県児童会館、休憩館など、時代の移り変わりと共に様々な公共施設として利用され、金沢の街の変遷を見守ってきました 。2008年に石川県立美術館の別館として新たな歩みを始め、2016年には耐震改修を経てリニューアルオープンしました 。現在は、隣接する石川県文化財保存修復工房のガイダンス室も併設されており、軍事の拠点から文化財保護の重要性を伝える発信地へと見事な転身を遂げています 。
一世紀にわたり、時代の要請に応じて役割を変えながらも、その優美な姿を保ち続ける建物を維持管理する関係様の尽力には、深く敬意が表されます。軍都金沢の歴史と、現代における文化財保護の意義を同時に体感できるこの場所は、歴史ファンにとって必見の地と言えるでしょう。
(2025年10月執筆)







