【和倉温泉】 加賀屋本館 取壊
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石川県和倉温泉の象徴として、長年にわたり日本の「おもてなし」文化を牽引してきた老舗旅館「加賀屋」。その中心であった本館が、全面的に解体されることが決まりました 。これは一つの時代の終わりであると同時に、未来へ向けた新たな物語の始まりでもあります。
加賀屋の歴史は1906年、12室の小さな宿から始まりました 。転機となったのは1958年の昭和天皇のご宿泊で、これを機に皇室御用達としての不動の地位を確立します 。高度経済成長期には、増大する団体旅行の需要に応え、「雪月花」をはじめとする増築を重ね、日本最大級の旅館へと発展しました 。旅行業界のプロが選ぶランキングで36年連続総合1位に輝くなど 、その名は誰もが一度は泊まりたいと願う憧れの象徴となりました。
しかし、2024年の地震がその歴史に大きな転換点をもたらします。甚大な被害を受け、経営陣は単なる修復ではなく、未来を見据えた「再創造」の道を選択。本館等の解体と、客室数を約40室に絞った新たな高級旅館を2027年度末に開業する計画を発表しました 。これは、団体旅行を主とした大規模モデルから、個々の利用者に寄り添う上質な体験を提供するモデルへの転換を意味するようです。
時代の変化と未曾有の災害を乗り越え、未来への革新に挑むその決断に、心からの敬意を表します。七尾湾を望んだ壮麗な建物は、やがて人々の記憶の中にのみ生き続けることになります。しかし、そこで生まれた数え切れないほどの家族の笑顔や心温まるおもてなしの記憶は、訪れた人々の心の中で、これからも永遠に輝き続けることでしょう。数年後にはより輝きを増した新しい本館に出会えそうです。その時には是非現地に足を運び新しい宿泊体験を楽しみたいものです。
(2025年8月執筆)
PHOTO:PIXTA