新港貿易会館
- 文化・教育施設
- 建物・施設
神戸の街は、1910年代から1920年代にかけて新港の突堤が整備されたことにより、国際貿易港として飛躍的な発展を遂げ、1920年には人口で国内第3位の大都市へと成長しました。この港湾発展の機運の中で、新港地区に点在していた港湾関連業者の事務所を集約する目的で建設されたのが、新港貿易会館です。
この建物は、当初「新港相互館」という名称で、1930年に竣工しました。構造は鉄筋コンクリート造の地上4階、地下1階建てで、施工は中島組が担当しています。設計者が不明確ながらも、この建物は昭和初期のモダン建築の傑作の一つとされています。外壁には当時流行したスクラッチタイルが用いられ、船の船室を思わせる丸窓や曲線的なデザインが特徴です。また、玄関周りや内部のステンドグラス、細部の装飾には、幾何学的な図形を用いたアール・デコ様式が凝らされており、当時の先端的なデザインを取り入れた独創性が光ります。
新港貿易会館は、近代における神戸の貿易拠点としての歴史を物語る重要な遺産として、その価値を現在も保ち続けています。特に、1995年の阪神・淡路大震災にも耐え抜いた強靭さは特筆すべき点です。その歴史的・文化的価値が認められ、2011年10月には国の登録有形文化財(建造物)に登録され、神戸市指定景観形成重要建造物にも指定されています。
現在も、新港貿易会館は現役のテナントビルとして使用されており、港湾業務を担う人々の活動拠点であり続けています。利用者は、この歴史ある空間を通じて、神戸港の往時の賑わいや日本の近代化の一端を肌で感じることができるでしょう。長きにわたりこの歴史的建造物を維持管理されている運営者の方々には、多大な敬意が表されます。この美しい会館を訪れるたびに、過去と現代が交差する瞬間に思いを馳せ、神戸の港が育んできた人々の記憶や思い出を振り返ってみてはいかがでしょうか。
(2025年11月執筆)
PHOTO:写真AC







