うろこの家
- 文化・教育施設
神戸市北野町山本通に佇む「うろこの家」は、日本の近代における国際交流の歴史を物語る重要な存在です。この異人館街は、1867年の神戸開港を契機にその歴史をスタートさせました。当初、外国人の居住地として設けられた居留地が手狭になったため、政府は生田川から宇治川までの間の雑居を許可しました。神戸港を見下ろす南向きの斜面という好立地を選んだ来日外国人は、明治20年代頃にかけて、この北野町界隈に洋風住宅を次々と建設しました。これらの異人館は、外国人建築家による設計指導のもと、日本人大工や左官、石工といった職人たちの技術によって実現した力作です。その特徴は、木造2階建てでベランダや張出窓を持ち、ペンキ塗りの外壁と煉瓦積みの煙突を持つ洋風の意匠にあります。
長らく住宅地として利用されてきた異人館街が広く知られるようになったのは、1977年に始まったNHKドラマ「風見鶏」の舞台となってからで、神戸を代表する観光地としての地位を確立しました。その歴史的景観は公的に高く評価され、1980年には、この界隈の主要部分が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。地区内には、和風建築と洋風建築が混在し、独特の異国情緒あふれる街並みが保全されています。
「うろこの家」は、居間の窓に青と緑を基調としたステンドグラスが配されており、サンルームからは当時の暮らしを偲びつつ神戸港を望むことができます。館内では、アール・ヌーボーのガラス工芸家エミール・ガレの作品やティファニーランプ、さらにドイツのマイセンやデンマークのロイヤル・コペンハーゲンといったヨーロッパの名窯による華麗な磁器製品が展示されており、異文化交流の豊かさを伝えています。
1995年の阪神・淡路大震災では、伝統的建造物に深刻な被害を受けましたが、国・県・市による手厚い補助と、地域住民が設立した保存会との協働によって景観の再生が進められました。この街並みは、苦難を乗り越え、多文化共生都市・神戸のアイデンティティを支える中核として、未来へ受け継がれています。この歴史的遺産を維持管理し、公開し続ける運営管理主の皆様には、深く敬意が表されます。神戸の国際都市としての歴史と、時を超えて守り抜かれた豊かな文化遺産を体感するために、歴史ファンの皆様にはぜひ一度当地を訪問されることを推奨いたします。
(2025年11月執筆)
PHOTO:PIXTA







