旧遠山家住宅板倉
- 文化・教育施設
岐阜県下呂市の下呂温泉合掌村に佇む「旧遠山家住宅板倉」は、江戸時代の飛騨の暮らしを今に伝える貴重な建造物です。この板倉は、もともと白川郷の御母衣(みぼろ)地区に建っていました。本家である遠山家は、白川郷の主幹産業であった焔硝(えんしょう)生産や養蚕業を取り仕切り、大家族制を維持した名家として知られます。
板倉の建設は江戸時代後期の文化7年(1810)に遡ります。建物に残された墨書から、伊八と定八という二人の大工の手によるものと判明しており、建築年代が明確な点でも史料的価値が高いものです。構造は、壁を二重の板張りにして気密性を高めた「板倉造り」で、穀物や農機具を保管する倉庫として機能しました。屋根は茅葺きの切妻造りですが、平入りとなっているのが特徴です。また、2階の床板が1階の天井を兼ねる「根太(ねだ)天井」の構造は、当時の養蚕農家の様式を色濃く反映しています。弘化3年(1846)には屋根の葺き替えが行われた記録も残っています。
昭和38年(1963)、御母衣ダムの建設に伴い集落が離散する中、この板倉は国指定重要文化財の旧大戸家住宅などと共に現在地へ移築され、水没を免れました。その歴史的価値が認められ、平成22年(2010)には国の登録有形文化財に登録されています。
開発と保存という時代の波を越え、この文化遺産を今日まで守り継いでこられた運営管理主の皆様には深く敬意が表されます。歴史ファンの皆様におかれましては、ぜひ当地を訪れ、江戸の匠の技と飛騨の風土が織りなす空間を肌で感じてみてはいかがでしょうか。
(2026年1月執筆)







