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伊世賀美隧道

  • 建物・施設

愛知県豊田市の伊勢神峠に、明治時代の姿を今に伝える「伊世賀美隧道(いせがみずいどう)」があります。このトンネルが完成したのは1897年(明治30年)のことです。

かつて、この峠を通る飯田街道は、信州と尾張・三河を結ぶ物流の大動脈でした。特に、生活に欠かせない塩を運んだことから「塩の道」、あるいは馬を使った物資輸送が盛んだったため「中馬街道」とも呼ばれていました。しかし、険しい峠越えは交通の大きな難所となっていました。明治時代に入り、日本の近代化が進む中で、この難所を解消し、物流を円滑化するために伊世賀美隧道が計画されました。総花崗岩で造られたトンネルは全長308メートル、幅約3メートルに及びます。建設にあたっては、現地の地質や豊富な湧水に対応するため、当時主流だったレンガではなく、石を積み上げる工法が採用されました。その結果、二重にアーチ石を組んだ「二重迫石」や、馬蹄形の美しい門構えなど、明治期ならではの重厚で優れたデザインが特徴となっています。

このトンネルの開通は、地域の経済に大きな変化をもたらしました。従来の荷物を背負わせる馬(荷付馬)から、より多くの物資を運べる荷馬車での輸送が可能となり、東加茂郡と北設楽郡の間の交流や経済活動は飛躍的に活発になりました。

時代は下り、自動車が普及すると、1960年に新たな伊勢神トンネルが、さらに2021年には新伊勢神トンネルが開通しました。交通の大動脈としての役割は後継のトンネルに譲りましたが、伊世賀美隧道は日本の近代化を支えた土木技術の貴重な遺産として、2000年に国の登録有形文化財に登録されています。

(2025年7月執筆)

PHOTO:写真AC

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