【四天王寺】 八角亭
- 文化・教育施設
大阪の天王寺区、聖徳太子建立と伝わる日本仏法最初の官寺・四天王寺。その広大な境内にある本坊庭園の一角に、時代を超えて静かに佇む洋風建築があります。それが、明治時代の熱気を今に伝える「八角亭」です。
この建物の歴史は、1903年に大阪で開催された第5回内国勧業博覧会に遡ります。日本の近代化と産業の発展を国内外に誇示するこの国家的な一大イベントにおいて、八角亭は「小奏楽堂」として誕生しました。博覧会が閉幕すると、他の多くのパビリオンは解体され、その跡地は「新世界」へと姿を変えていきましたが、この八角亭だけが奇跡的に保存され、現在の四天王寺本坊庭園内に移築されました。これにより、博覧会の様子を伝える唯一の現存建造物として、その歴史的価値は計り知れないものとなっています。
建築様式はルネサンス様式を基調としながらも、八角形の西洋風の構造に日本の伝統的な和瓦を葺くという、まさに「和洋折衷」を体現したデザインが特徴です。ライトブルーの爽やかな外壁や、窓にはめ込まれた色ガラスが、明治期のモダンな雰囲気を醸し出しています。その歴史的・文化的価値が公に認められ、1997年には国の登録有形文化財に登録されました。仏教の理想郷を表現した日本庭園と、近代化の象徴である洋風建築が織りなす他に類を見ない景観は、訪れる人々に深い感銘を与えます。
1世紀以上にわたり、この貴重な文化遺産を大切に護り伝えてこられた四天王寺の関係者の皆様には、深く敬意が表されます。明治という時代のロマンと、近代都市・大阪のエネルギーの源流に触れることができるこの場所へ、歴史を愛する皆様はぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。
(2025年10月執筆)