旧犬吠埼霧信号所霧笛舎
- 建物・施設
千葉県銚子市の犬吠埼に立つ旧霧信号所霧笛舎は、日本の近代化の歴史と海上交通の安全を物語る極めて貴重な建造物です。
犬吠埼沖は暖流と寒流が交わる地点であり、特に梅雨の時期には濃霧が発生しやすい地理的条件にあります。このため、視界不良時に船舶に対し音で灯台の位置を知らせる霧笛の役割は、海上交通にとって不可欠でした。この重要な役割を担う施設として、霧笛舎は1910年に犬吠埼灯台の傍らに建設されました。
この霧笛舎の最大の特徴は、カマボコ形(ヴォールト屋根)で、壁から天井に至るまで全て鉄製で造られている点です。これは明治後期の日本の灯台付属施設の特徴をよく示しています。明治時代には同様の鉄造の霧笛舎が各地に建設されましたが、その中で現存する唯一の鉄造霧笛舎として、犬吠埼の霧笛舎は歴史的に特別な位置を占めています。さらに、この建物の鋼材は、その成分分析の結果から、創業間もない官営八幡製鉄所製である可能性が高いとされています。この事実は、旧犬吠埼霧信号所霧笛舎を国産の鋼材を使用した現存最古の建物と見なす根拠となっており、日本の近代産業発展の一面を象徴する施設としても高い価値を有しています。内部には、圧縮空気で音を鳴らすエアサイレン式の霧笛装置の一部が展示されており、太平洋戦争で受けた銃撃の跡も残されています。
船舶用の航海計器、特にGPS(全地球測位システム)が普及したことに伴い、霧信号所の必要性は薄れました。そして、犬吠埼霧信号所は2008年3月に霧笛としての運用を終了しました。その歴史的価値は公的に認められており、2014年12月に国の登録有形文化財に登録されました。その後、2020年12月には、灯台や旧倉庫とともに国の重要文化財に指定されています。現在も建設当時の姿を良好に保ち、文化財として保存・活用されています。
長きにわたり海の安全を守り、日本の近代化の証しとしてこの貴重な文化財を維持管理されている運営管理主の方々へ、深く敬意が表されます。歴史の重みと、力強い産業の夜明けを今に伝えるこの地を、ぜひ歴史ファンの方々に訪れていただきたいと強く推奨いたします。
(2025年11月執筆)







