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久部良バリ

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琉球の記憶を刻む断層と荒波の芸術

久部良バリは、日本最西端の島・与那国島の北西岸に位置する、全長約15メートル、幅約3.5メートル、深さ約7メートルにも及ぶ巨大な岩の割れ目です。この地は、硬い琉球石灰岩が下層の砂岩層(八重山層群)を覆う特異な二層構造を持ち、荒波による浸食が作り出した「ノッチ」と呼ばれる庇状のくぼみや、古生物の生痕化石であるサンドパイプが無数に見られる地質学的にも貴重な場所です。その景観は沖縄本島の万座毛にも比肩すると称えられ、古くは昭和49年(1974年)4月25日に沖縄県指定の名勝となり、平成26年(2014年)3月18日には「久部良バリ及び久部良フリシ」として国の名勝に指定されました。大地が大きく口を開けたようなその姿は、訪れる者を圧倒する迫力に満ちています。

 

悲劇の伝承と祈りを捧げる聖域

この雄大な断崖には、琉球王国時代の過酷な「人頭税」にまつわる悲しい記憶が刻まれています。かつて人口調節のために妊婦を集め、この深い割れ目を跳び越えさせたという伝承があり、失敗すれば命を落とし、成功してもその衝撃で流産を免れなかったといわれています。一方で、ここは豊かな実りを願う神聖な場でもあります。旧暦4月には「フームヌン(穂物忌み)」という祭祀が執り行われ、害虫の霊を海の彼方の理想郷へと送り出す儀式が行われてきました。現在は、犠牲となった魂を慰めるようにお地蔵様が安置され、隣接する製塩所の営みと共に、島の日常と祈りが静かに溶け合っています。

 

時代と共に歩む保存と安全への取り組み

時代の変遷とともに、久部良バリを取り巻く環境も新たな局面を迎えています。日本で最後に沈む夕陽を望む西崎エリアの象徴として多くの観光客が訪れる中、風化や断層構造による崩落の危険性も指摘されるようになりました。これを受け、令和7年(2025年)10月には地元関係者や専門家による「国指定文化財保存活用策定委員会」が発足しました。最新の計画では、令和9年(2027年)度までの期間をかけて、地形を立体的に記録する3次元モデルの作成など、科学的なアプローチによる記録保存が進められています。歴史の重みを守りつつ、誰もが安全に見学できる環境づくりが着実に進んでいます。

 

先人への敬意を未来へ繋ぐ懸け橋

久部良バリが物語る歴史は、決して平坦なものではありません。しかし、その厳しい過去を乗り越えてきた先人たちの足跡こそが、現在の与那国島の強さと美しさを形作っています。荒々しい波が打ち寄せるこの断崖は、命の尊さと自然の厳威を私たちに問い続けているかのようです。最新技術による保存活動は、単なる地形の維持ではなく、この地に宿る精神を次世代へ引き継ぐための大切な一歩となるでしょう。国境の海に沈む夕陽に照らされた岩肌を見つめる時、私たちはこの場所が持つ深い叙情と、未来へ向かう確かな希望を感じずにはいられません。

(2026年2月執筆)

PHOTO:PIXTA

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