五龍閣
- 文化・教育施設
京都・清水寺の参道にあたる清水坂に、大正ロマンの風情を色濃く残す洋館「五龍閣」が佇んでいます。この建物は1921年に竣工しました。施主は、清水焼の窯元から碍子(ガイシ)や人工歯の製造で世界的企業へと飛躍した実業家・三代目松風嘉定です。
設計は、京都帝国大学建築学科の創設者であり「関西建築界の父」とも称される武田五一が手掛けました。外観はセセッション様式を取り入れた洋風建築でありながら、屋根には瓦を用い、さらに大棟の両端に鴟尾(しび)を載せるという、独創的な和洋折衷の意匠が特徴です。内部には3階まで吹き抜ける階段室やステンドグラスが配され、当時は迎賓館やギャラリーとしても機能していました。
時代は移り、後に湯豆腐店「順正」の創業者である上田堪一郎氏がこの建物を継承しました。その歴史的・芸術的価値は公にも認められ、1999年には国の登録有形文化財に登録されています。現在はカフェ・レストランとして一般に開放され、京都の進取の気風を今に伝える地域のランドマークとして親しまれています。
一世紀という長い時を超え、震災や戦禍をくぐり抜け、この貴重な建築遺産を守り活用し続けている運営主の方々に深く敬意が表されます。歴史ファンの皆様も、当時の実業家や建築家が描いた夢の空間に身を置き、窓から古都の景色を眺めてみてはいかがでしょうか。
(2025年12月執筆)
PHOTO:写真AC







