ハンズ渋谷店 閉店
- 商業施設
手の復権を掲げた都市の迷宮の誕生
大量消費社会への違和感を背景に、「手の復権」を理念として昭和51年(1976)8月に産声を上げた東急ハンズ。その旗艦店として昭和53年(1978)9月9日に開業した渋谷店は、高低差のあるオルガン坂という難解な土地に建てられました。当時26歳の中西繁氏が手がけた設計は、1つの階層を3つに分けた「スキップフロア」という革新的な立体構造を採用。全24フロアがらせん状に連なり、408段の階段を行き来する店内は、まるで迷宮を探索するような独特の高揚感を人々に与え、東急百貨店本店や渋谷パルコなど周辺の大型商業施設を結ぶ回遊ルートを生み出し、宇田川町界隈に新たな人の流れを引き寄せました。
モノづくりへの情熱と偏愛が満ちる空間
開業初日に2万5000人が押し寄せた店内は、エプロン姿のスタッフが専門知識で応じる活気に満ちていました。膨大な電球や特殊な工具が並ぶ売り場は、訪れる人のインスピレーションを刺激し続け、昭和58年(1983)に始まった「ハンズメッセ」も大盛況を記録。近年では創業50周年に向けた「生活編集図鑑プロジェクト」が展開され、昭和の怪獣ソフビやヴィンテージラジカセなどが並ぶマニアックな偏愛を包み込む特設空間を通じて、効率が重視される風潮の中、あえて「迷う無駄を楽しむ」というリアル店舗ならではの価値を最後まで提案し続けました。
時代の潮流と告げられた終わりの季節
激変する流通業界の中で、令和3年(2021)12月22日にカインズへの事業売却が発表され、令和4年(2022)10月1日には社名から東急の文字が消えて「ハンズ」へと生まれ変わりました。ロゴも新しくなり、新たな体制で歩みを進めていた令和8年(2026)5月25日、建物の賃貸借契約満了に伴い、同年11月をもって48年の歴史に幕を閉じることが公表されました。
創造の灯をともし続けた迷宮への敬意
都市の風景が変わりゆく中で、長きにわたり人々にモノづくりの喜びを伝え、渋谷のカルチャーを支え続けてくれた同店へ深い敬意を表します。階段を一段進むごとに新しい発見があったあの特別な空間と、そこでの心躍る体験が、未来のクリエイティブな挑戦へと受け継がれていくことが願われます。たくさんの素晴らしい記憶を残してくれた迷宮の物語は、人々の心の中で永遠に輝き続けます。
(2026年5月執筆)
PHOTO:写真AC







