白水溜池堰堤
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脆い土地に水を蓄える
竹田市から荻町にかけての流域は、阿蘇に由来する火山灰質の土壌に覆われています。保水力が低いため、雨が降れば一気に流れ去り、日照りが続けば川はたちまち干上がりました。天水に頼るほかなかったこの地域では、干ばつと水争いが繰り返されてきました。幹線水路である富士緒井路の慢性的な水量不足を根本から断つため、大野川水系の大谷川に溜池堰堤を築く工事が始まったのは1934年(昭和9年)4月のことです。約4年をかけ、1938年(昭和13年)3月に主堰堤と副堰堤が完成しました。設計を担当したのは大分県の土木技手であった小野安夫氏、工事の指導と監理には農林技師の荒瀬長一氏と池田香久二氏が携わり、施工は鉄道工業株式会社が担いました。主堰堤は堤高約14m、堤長約86m。重力式コンクリート造の表面に石を貼った越流式で、総貯水容量は60万立方メートルに達します。
竜門の滝から学んだ落とし方
設計上の最大の難題は地質でした。川床は目が粗く崩れやすい阿蘇溶結凝灰岩で、大量の水が勢いよく落ちれば基盤が削られてしまいます。そこで小野氏が着目したのが、同じ凝灰岩でありながら滝壺を作らない九重町の竜門の滝でした。水の勢いをどう殺しているのかを観察し、その仕組みを堰堤に応用します。右岸の翼壁にはなめらかな曲面で水を受け流す武者返しが設けられ、左岸には半円状の小滝を雛壇のように重ねた流路が組まれました。堤体の表面にはあえて目の粗い切石が使われ、流れ落ちる水を細かな泡へと変えます。左右の流路から寄せた水が中央の本流を挟み込み、互いの水圧を相殺する仕掛けです。
16kmの水路と、国の重要文化財
蓄えられた水は、全長16kmの富士緒井路へ送り出されます。このうち12kmは山腹を貫く隧道で、標高457mの小富士山などの高みへ水を導き、約288ヘクタールの水田と畑地を潤してきました。1999年(平成11年)5月13日、この施設は「白水溜池堰堤水利施設」として国の重要文化財に指定されます。意匠と技術の両面が評価され、由来を伝える白水池碑1基が附として指定に含まれました。管理は今も富士緒井路土地改良区が担っています。ただし長年の運用で貯水池に土砂が堆積し、水門の操作ができなくなったため、2016年(平成28年)に準備工事が始まりました。2018年(平成30年)から2027年(令和9年)までの予定で、毎年11月下旬から翌年6月中旬にかけて越流を止め、泥土の撤去が進められています。2025年度は11月27日に越流が止まり、工事の一時中断にともなって翌年6月12日から流れが戻りました。
白い水の落ちる音
石貼りの堤面をこぼれた水は、魚の鱗のような波紋と白い泡をつくりながら滑り落ちます。激しい落水音ではなく、細かく砕かれた水の音が幾重にも重なって谷間に響きます。遠くから見れば、純白のレースが揺らいでいるようにも映ります。深い緑の岩場に石が積まれた構造物は、人の手によるものでありながら周囲の風景に溶け込んでいます。築造から90年近く、この堰堤は農地へ水を送りながら、その姿を文化財として守られています。
(2026年9月執筆)

この水が、16kmの富士緒井路へと送り出されていきます。
PHOTO:写真AC







