岡山禁酒会館
- 建物・施設
岡山禁酒会館は、1923年2月、岡山市北区丸の内に禁酒運動の拠点として建設されました。大正時代末期、景気の悪化や社会不安の高まりから飲酒問題が深刻化し、成瀬才吉や河本正二といった禁酒運動家が中心となり、資産家の綱島長次郎を設立委員長に迎えて建設が進められました。会館は「禁酒の常時宣伝機関」として、岡山市街の中心地、岡山城西の丸西手櫓の隣接地に誕生しました。
建物は木造3階建てで、寄棟造・スレート葺の屋根が特徴です。外観はドイツ壁風と白タイル張りを組み合わせ、垂直性を強調するセセッション風の意匠が印象的です。竣工当初は1階が食堂、2階が集会場、3階が宿泊施設として利用され、講演会や展覧会、全国規模の禁酒大会など多彩な活動が行われました。1924年には全国から850名が集う禁酒博覧会も開催されています。
第二次世界大戦中の岡山空襲でも焼失を免れ、戦後も市民の集いの場や文化活動の拠点として活用されてきました。1970年代には老朽化による解体計画が浮上しましたが、市民の保存運動により存続が決定。2002年には国の登録有形文化財に指定され、歴史的建造物としての価値が認められました。現在は、珈琲屋やイベントスペースが入居し、文化活動の拠点として親しまれています。管理は財団法人岡山禁酒会館が担い、NPOや市民団体と連携しながら活用が続けられています。
岡山禁酒会館は、近代岡山の社会運動と市民文化の記憶を今に伝える貴重な建築遺産です。その保存と活用に尽力されてきた関係者の皆様に敬意を表するとともに、歴史と文化の息づくこの会館をぜひ一度訪れてみてください。
(2025年6月執筆)
PHOTO:PIXTA